運命を変えた言霊
この間来院された患者さんは、「ブラッシングの達人」という認定書を渡した方でした。
非の打ち所がないくらいの完璧だったので、
「すごく上手ですね。」とわたしなりの最上級の褒め言葉を言った。
予定していた診療時間よりも早めに終わったので患者さんと世間話をした。
患者さんと話をしていると、とても参考になることが多い。
その患者さんの初診の時のブラッシングの状態はどうだったのか?と思い、
過去のカルテをめくってみた。平成20年が最初だった。
いままで定期的な検診とブラッシングのチェックはしてきたが、
その他に削るような治療などは一切していない。
現在でこそ、磨き残しの%はとても低く非常に素晴らしい状態なのだが、
最初の頃は磨き残しがは30%とかなり多い状態だったのだ。
30%というのは磨き残しが全くない状態が0%としていて、数字が小さいほど
ブラッシングは上手ということになる。
木馬歯科では磨き残しの目標値を10%未満としていて、その方に認定書を渡している。
しかし、その方は短期間でかなりのレベルまで上達していた。
一体何が彼女をそこまで上達させたのか疑問に思った。
「何か、ブラッシングを一生懸命にやろうとしたきっかけがあったの?」と
わたしは尋ねてみた。
その患者さんはこういった。
「先生が最初のブラッシング指導の時に、このままでは歯周病にかかり、歯が抜ける可能性が
高くなってしまう。歯が抜けるということは寝たきりになる可能性が高くなると言ったんです。」
確かにわたしはそういう表現を使い、なぜブラッシングをちゃんとマスターしなくてはいけないかを説明するときがある。
これはなにも大げさに言っているのではないのです。
例えば野生の動物なら、自身の力で、餌を捕ることができなくなった時が寿命となるわけです。
人間も食事が取れなくなった時が野生の動物のように寿命と言ってもいいかもしてません。
人間は歯を失ったとしても入れ歯や差し歯で補うことは出来ますが、
入れ歯になった人のほとんどが、歯を大切にしておけばよかったと後悔しているのです。
どんなに完璧な治療をしても、自分の歯以上の性能はありえないのです。
柔らかいものを食べても、やはり自分の歯と入れ歯とでは 噛み心地が全然違うのです。
自分の歯が大切であることは、おわかりいただけたでしょうか?
歯が抜けてしまうのは老化現象ではなく、多くは歯周病で抜けてしまうのです。
歯周病は予防することも治療することも可能ですが、
そのためには患者さんの協力が必要です。
医患共同でなければ無理なのです。
患者さんには今までの人生や考え方があり、
ブラッシングの重要さを改めて考え直してもらうことは中々難しいのです。
今回のブラッシングの達人は
「このままだと、寝たきりになる可能性がある」という言霊が
その方の魂に響かせたのです。
わたしはいつも患者さんを前にしては
「どういう言葉をかければその方の行動を変えることができるのか」考えています。
わたしは、あなたの考え方を変えることはできるでしょうか?