笑顔になってもらえた。
笑顔になんとかなってもらいたい。
通院中のRさんは、人生おもしろくないと顔に書いてあるような人で
問診表に精神科に通院中、うつ病と書いてある。
主訴は「人生を面白くして欲しい」こういう言い方をする人はいません。
でも、結局は「幸せにしてもらいたい」。
来院する患者さんの主訴はこういうことではないかと思うのです。
わたしが不幸なのは、歯が痛いから。わたしが不幸なのは、歯がないから。
わたしが不幸なのは、歯が黒いから。
だいたいこういう感じではないかと思うのです。
今回のRさんの主訴は、今の入れ歯が合わなくて、食べると痛いし、よく噛めない。
だからよく合い、快適に食事ができる入れ歯を作ってもらいたい。
と言うことでした。
まず、初診では患者さんの話をよく聞くことです。
ただ聞くのではなく、よく聞くのです。
でもこの方は、うつ病のせいかもしれなくて、あまりよく話をしません。
それでも、言葉のキャッチボールは大事ですので、
答えやすいように質問しながら、話を聞き出しました。
口の中を診たら、歯垢だらけで、歯肉も腫れています。
今回、新しい入れ歯を作ったとしても、この状態では
半年後には、他の歯が抜けて、修理するか新しく作るようになるかもしれません。
患者さんは、嘘は言いません。
本人は歯ブラシはしていると言うけれど、実際汚れは落ちていないのです。
歯ブラシを口の中に入れて動かしてはいるのですが。
みなさん口の中には良い菌も悪い菌もいます。そのことをまず知ってもらうために歯の汚れをとり、位相差顕微鏡で一緒に見ました。
「なんですか、これ?」「どこから来たのでしょう?」
Rさんが驚いたように話しかけてきました。
「これは食べかすではないのです」「Rさんの口の中にいたものです」
私は説明しました。正しいブラッシングがなぜ必要なのか。放置するとなぜいけないか。
Rさんは今度はわたしの話をよく聞いてくれました。
Rさんに正しい歯ブラシの仕方を教え、実行してもらったところ、1ヶ月後にはブラッシングもかなり上達しました。
それと並行して、入れ歯の製作も進めました。
前回、診療室で完成した新しい入れ歯を使ってもらいました。
30分ほど使ってもらったところ装着感もよかったそうです。
本来なら、その場で食事してもらって感想を聞きたかったのですが、そうもいかないので、家で食事してもらい、1週間で不自由したことを聞きました。
そうしたところ快適に使えたという報告を受けました。
4ヶ月後に再会の約束をしましたので、これでしばらくは会うこともないでしょう。
そして、最後にわたしと一緒に記念写真を撮りました。
わたしはすぐに笑顔を作ることができます。
Rさんにも、笑うように促したら、今までに無いような笑顔を作ってくれました。
記念写真は大きく引き伸ばして、郵送するつもりです。
「玄関に飾っておいてね」と言って別れました。
うつ病の原因はわたしにはわかりませんが、無表情だったのが笑顔になったんです。